『風が強く吹いている』小説・映画・アニメとひとり箱根駅伝

小説『風が強く吹いている』 ランニング全般
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ランニングのモチベーションが落ちるときは誰にでもあると思います。

なぜ走るのか、何を目指すのか、どこへ行きたいのか。
そんなときに力を与えてくれるのが『風が強く吹いている』です。

読み終わると、思わず走りたくなります。箱根駅伝区間を走ってみようかなという気にもなります。映画やアニメも観たくなります。

著者の三浦しをんさんは解説のなかで「読者にとっても私の本が希望であってほしいと思っています」と語っています。

原作小説、実写映画版、アニメ版『風が強く吹いている』と箱根のコースを紹介します。

この記事を書いている私は、いまさらですが『風が強く吹いている』を読んで感動! 
いつかはひとり箱根駅伝をしたいと思うようになりました。

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思わず走り出したくなる『風が強く吹いている』

小説『風が強く吹いている』

風が強く吹いている』(以下、『風つよ』)は、箱根駅伝を舞台にした三浦しをんさんの直木賞受賞第1作。2001年から構想、取材、執筆に6年かけ、2006年9月22日に新潮社より刊行されました。

『風つよ』は2007年に漫画化、ラジオドラマ化され、2009年1月には舞台化、同年10月に実写映画化されています。さらに、2018年にはテレビアニメ化もされています。

そんなに多彩な展開をしているのに、これまで読んだことも観たこともなかったので、手始めに新潮文庫を買って読み始めました。

小説『風が強く吹いている』

小説『風が強く吹いている』

高校時代にエリートランナーだった清瀬灰二(ハイジ)、天才ランナーの蔵原走(カケル)のふたりを主人公として、ハイジが自身の夢と野望に、竹青荘(アオタケ)に下宿する個性豊かな寛政大学のメンバーを巻き込んで、箱根駅伝を目指す青春長編です。

「走るの好きか?」その言葉から、ハイジとカケルの関係は始まります。

「俺たちみんなで、頂点を目指そう」

アオタケでのカケルの歓迎会でハイジが言い出し、「目指すは箱根駅伝だ」と高らかに宣言。その壁の高さを知るカケルは反発します。

走ること以外は不器用で口下手の「カケル」、陸上経験者の超ヘビースモーカー「ニコチャン」、高校時代は剣道部だった頭脳明晰な「ユキ」、高校時代はサッカー部だったクイズ好きの「キング」、同じくサッカー部だった双子の「ジョージ」&「ジョータ」、毎日往復10kmの山道を歩いて学校に通っていた「神童」、潜在能力を秘めたアフリカ出身の黒人留学生「ムサ」、漫画オタクで運動音痴な「王子」というアオタケの住人たちは、ハイジにそそのかされて、崖っぷちの狭く危険な険しい道のりへ歩み出し、無謀な挑戦を始めます。

素人ばかりの集団が箱根駅伝を目指す!? しかも、予選会まで半年!? 絶対ありえない!

あまりにも話がうまくできすぎているうえに、先の展開も予想できるのに、物語の世界にぐいぐい引き込まれます。おもしろい!

荒唐無稽な設定や進行でも、力のある作品は読者をぐいぐいと共感の渦に巻き込みます。極上のエンタテインメントです。

ランニングシューズも持っていないような素人の練習初日の5kmのタイムがひとりをのぞいて19分以内って速い! 素質を感じます。唯一、ずば抜けて遅い「王子」も33分台、それって、そんなに遅くないですよね?

箱根駅伝予選会のための記録会、インカレポイントなど、勉強になります。次の箱根駅伝を見るのが楽しみになります。

予選会を勝ち抜くまでで文庫半分ほどの335ページ。読み応えがありますが、止まりません!

本気のハイジにできる限りのことをしようと、アオタケのメンバーがハイジに対して終始好意的なところが原作の素晴らしいところ。ハイジの人望のなせる技ですが、仲間の信頼、絆を感じます。

「箱根の山は天下の険!」を合言葉に、10人はときに衝突しながら努力を積み重ねます。その練習量が半端ない!

幾多の困難を乗り超えて迎えた箱根駅伝本番当日。それぞれがそれぞれの強さを身につけて、自分自身と向き合い、仲間を信じて襷をつなぎます。

著者の三浦しをんさんは努力神話について考えてみたかったと解説のなかで語っています。

「私自身、報われなかったのはがんばらなかったからだという考え方に納得がいかないからです。才能や実力のない人に到底たどりつけない目標を与えてがんばらせるのは、人間を不幸にすると思う。できる、できないという基準ではない価値を築けるかどうかを、小説を通じて考えてみたかった。報われなかったからといって、絶望する必要はないんじゃないか、と」

『風が強く吹いている』三浦しをん(新潮文庫) 解説より

人には個性があり、好きなことも得意なことも違います。何をもって報われたと考えるかも違います。それでいい、だからいい、と感じました。

速さではなく強さ、という言葉が心に響きます。

映画版『風が強く吹いている』

映画版『風が強く吹いている』
映画版『風が強く吹いている』DVD

実写映画『風が強く吹いている』では、カケルを林遣都さん、ハイジを小出恵介さんが演じました。

冒頭のシーンから原作とは違います。ハイジが初対面のカケルにお腹いっぱい食べさせ、食い逃げを装って全力疾走させるという設定は、「食べてすぐ走らせるなんて」と少し違和感を感じました。

毎朝5kmのジョギングがアオタケ入居の条件なのも、最初から住人と陸上が結びついているようで、しっくりきません。

予選会のカケルの順位、寛政大学の予選通過順位も原作とは変わっています。

それぞれのキャラクターの描き方も、時間の制約があるせいか、深く掘り下げることが難しかったかなと感じました。

ラストシーンの演出には賛否が分かれているそうです。

私自身はクライマックスとしての盛り上げ方が少し過剰かなと感じました。1秒を削り出すスピード勝負の厳しい世界ですから、ゴール間近の出来事は一瞬のこととして、原作のまま映像化しても感動的だった気がします。

全体的に、原作を読んでいないと端折りすぎてわからないのでは? と思わせるシーンがある一方、原作を読んでいるから戸惑うシーンもありました。

違いを探して楽しむのもいいかもしれません。

アニメ版『風が強く吹いている』

アニメ版『風が強く吹いている』
アニメ版『風が強く吹いている』公式サイトより

アニメ版の『風が強く吹いている』は2018年10月から2019年3月まで、日本テレビほかで全23話にわたって放送。原作が刊行されてから12年の時を経て、堂々のアニメ化です。

製作が「寛政大学陸上競技部後援会」というのが、人気を誇る名作ならではですね。

原作よりもそれぞれのキャラクターが濃密に描かれているように思いました。

ハイジは自らの夢の実現にひたむきです。カケルは、アニメでは原作よりも突っかかって反抗的で、走ること以外は未熟な面が強調されている気がします。

ヘビースモーカーのニコチャン先輩はアニメではロン毛です。司法試験に一発合格した秀才ユキはクールなメガネ姿、双子のジョータ&ジョージは無邪気で脳天気です。

クイズ王のキングは、アニメ版ではがっしりとしていて、就活のため駅伝の練習に最後まで非協力的です。映画版ではウルトラクイズの帽子をかぶっていましたが、映画とアニメでは容姿の印象が違います。

神童は穏やかで素朴な好青年、ムサは強調性のあるやさしい性格です。

端整な容姿がデフォルメされた漫画オタクの王子は、アニメ版で最も際立っているキャラクターで、いい味を出しています。運動音痴ながら、生来の粘り強さでタイムを縮めていきます。

原作ではカケルたちと同じ寛政大学1年生という設定の紅一点のマネージャー的存在「ハナちゃん」は、アニメでは高校生として登場します。

アニメ版も、予選会の順位などが原作とは違います。

でも、大学や合宿先、予選会会場や箱根の描写、一人ひとりの心情など、とても丁寧に、大切に描かれていて楽しめます。

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ひとり箱根駅伝をするとしたら

箱根駅伝公式サイトより 往路コース紹介
箱根駅伝公式サイトより 往路コース紹介

箱根駅伝の功罪

箱根駅伝は、東京・読売新聞社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(107.5Km)、復路5区間(109.6Km)の合計10区間(217.1Km)で競う、学生長距離界最長の駅伝競走です。

国民的なイベントである箱根駅伝に憧れ、出場を目指して関東圏の大学に入り、箱根のためにトレーニングをする実力ある長距離選手は多いことと思います。

しかし、箱根駅伝が日本の長距離界にマイナスの影響を与えているという指摘もあります。吉岡利貢さんは著書『毎日長い距離を走らなくてもマラソンは速くなる!』(ソフトバンク新書)で、20kmを一定ペースで走る練習、駅伝中心の過酷なトレーニングでは成長が頭打ちになると書かれています。

マラソン日本記録保持者の大迫傑さんは早稲田大学時代に箱根駅伝で活躍されましたが、「僕は駅伝が好きではなかった」と著書で語っています。

駅伝という種目に魅力があることはもちろん分かっています。でも輝いているのは自分じゃなくて学校であって、選手はただの使い捨てに過ぎないんじゃないかという思いが当時から今までずっとあるんです。だから駅伝だけに力を入れているような印象の大学には行きたくありませんでした。(中略)ただ、高校生の僕は駅伝の先には何もないということは感じていたけれど、じゃあどうやって違うところを目指していくのかという具体的な道筋までは見えていませんでした。(中略)
駅伝のシーズンは僕にとっては不要でしたが、結果的には色々な縁もできて、大学に行ってよかったと思っています。

走って、悩んで、見つけたこと。』大迫傑(文藝春秋)

『風つよ』のメンバーはもちろん、箱根駅伝のために大学に集った精鋭ランナーではありません。

「目指すは箱根駅伝だ」と悠然と述べたハイジに、怒号で応えます。

無理だ。気でもちがったのか。なんで正月早々、短パン姿で襷をかけて山を登らにゃならん。ハコネエキデンってなんですか。

『風が強く吹いている』三浦しをん(新潮文庫)

そういう面々が純粋に目指した箱根だからこそ、おもしろいのです。

いまでこそ、お正月は箱根駅伝を楽しみにして、外出時にも気になってラジオを聴いてしまうほどですが、私も2011年にランニングを始めるまで、「花の2区」「山の神」という言葉も知らないほどで、たいして興味がありませんでした。

走り始めて1年でサブ3.5を達成した2012年11月、自分へのご褒美としてレースの1週間後に箱根旅行に出かけ、5区を小涌谷から芦ノ湖まで往復16km走ってみたことがあります。最高地点の風がものすごくて、立っていられないほどでした。

そのときは、箱根駅伝の全コースを走ってみるなどとは考えつきませんでした。

箱根駅伝のコース

国道1号線をメインに、東京都千代田区大手町・読売新聞東京本社ビル前から、鶴見、戸塚、平塚、小田原の各中継所を通って、神奈川県足柄下郡箱根町・芦ノ湖まで往路107.5 km、復路109.6 kmの計217.1 kmです。

「ひとり箱根駅伝」と称して、毎年このコースを走っている方もいるようです。

スタートから往路のゴールまで一気に走るパターン、途中で1泊するパターン、もっと細かく区切るパターンとさまざまです。

実は大学時代の友人が「ひとり箱根駅伝」を始め、1区間ずつ走っています。箱根を走る、と聞いてもピンとこなかったのですが、『風つよ』に触れてから、私もやってみようかなと思い始めました。

問題は、スタート地点までと目的地からの交通手段です。当然ですが、走り終えたところから電車などの交通手段を使って帰らなくてはいけません。

芦ノ湖まで一気に行くなら、泊まってもいいかなと思いますが、107.5キロを通しで走るのは私には厳しそう。

半分ならいけるかも? 2区間ずつが現実的? 大事に1区間ずつ?

電車に乗って帰るなら着替えをしたいもの。とすると、先に目的地の駅に荷物を置いておくか、持って走るか。

コンビニや24時間営業のレストランなどは途中にたくさんありそうなので、エイドを持つ必要はなさそう。

箱根駅伝のコースを改めて見て、高速を通らないんだなあと思いました。

走る距離にもよりますが、途中でどのくらい休んでいいか、目標ペース、目標期間などを決めておいた方がいいかも。

いずれにしても、ゆっくりLSDで進むことになりそうです。

もし往路を無事に終えたとしたら、復路を走るモチベーションを維持できるかな。それとも往路だけでいいかしら。

箱根駅伝公式サイトより 復路コース紹介

これも当たり前のことだけど、夏は暑いし、冬は寒い。

フルのレースの予定も決まらないので、いつにするかの予定を立てにくい状況ですが、いつかチャレンジしたいと思います。

まとめ

初版発行から14年も経って初めて手にした『風つよ』。その作品世界にどんどん引き込まれて、一気に読了しました。

カケルの両親が応援する姿を見たかったな〜と感情移入したりして。

漫画版を読んでいないので、全6巻、チャンスがあれば、読んでみたいものです。

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